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ツアー高速バス事故、「格安」の背景に何があるのか求められる想像力

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ツアー高速バスの事故が発生してからマスコミ報道を注視してきた。

「あづみの」の時は貸切バス会社の安全管理体制が報道の中心で、旅行会社とバス会社との関係、ツアーバスのあり方についての報道は少なかったと記憶している。その後、NHKスペシャルでツアーバスの実情が放映され、拙ブログでも「高速ツアーバス価格競争の裏で」として取上げたが、5年経っても多くのアクセスがある。

今回の報道傾向はもう少し踏み込んでツアーバスの実体や路線高速バスとの違いなどをだいぶ詳細に伝えており、見当違いの報道も減っている。やはり、ツアーバスや高速バスそのものの認知度が高まったことも影響しているかもしれない。

一連の報道を見て驚ろき、考えさせられたことがある。

まず、金沢駅近くの駐車場に並ぶツアーバスの数の多さである。有に30台は停まっているのではないか。夜が更けた地方都市の駅前では日常的な光景となったが、その数は圧巻であり、いつの間にかツアーバスが夜行移動の主役になってしまった。

これでは夜行列車が衰退した当然である。もし、ツアーバス利用客が鉄道にシフトをしてくれれば「北陸」や「能登」を臨時で数本走らせることができそうだ。逆に云えば、「北陸」や「能登」の需要がツアーバスに行ってしまった。寝台車の5分の1以下の料金で東京まで行けるのだから仕方がないが、ツアーバスの台頭は夜行列車衰退(絶滅)へのダメ押しになったようだ。

もうひとつ驚いた報道があった。

バス事故では加越能鉄道の19才のガイドさんが亡くなられている。加越能とは高岡市にある路線バス会社で、東京(池袋)までの乗合高速バスも運行している。何で自社のバスに乗らなかったのか疑問に思えたが、ハーヴェストの方が自社バスの社員割引よりも安かったのではないかと想像してしまった。

ツアーバスを利用すれば加越能の高速バスの半額以下である。詳しいことはわからないが、バス会社の方は自社を利用してくれればと悔やんでいるのではないか。

これまで、夜行高速バスというと若者ご用達のイメージであったが、今回の事故を見ていると中高年の方もけっこう乗車されていたようである。また、数年前までは馴染みがある地元のバス会社便(今回のコースであれば北陸鉄道や加越能鉄道、西日本JRバスなどの高速路線バス)を利用するケースが多かったが、安いツアーバスの物量攻勢により、地元客でさえも流れるようになった。消費者の嗜好はここでも「安さ」にシフトをしている。

 

ツアーバスは小泉構造改革による規制緩和で生まれたようなものである。貸切バスには新規事業者が雨後の筍のように参入し、スキーバスの急激な落ち込みや不況で苦しんでいた旅行会社は新分野のツアー高速バスにこぞって参入した。その結果が今である。

長期デフレが続くうちに消費者は「安さ」に慣れてしまった。ツアーバスの増殖は利用回数を増やし、旅行のハードルを低くしたことは事実だが、鉄道を中心とする既存の交通機関に大ダメージを与えた。

その現象を服に例えれば、ツアーバスの利用をユニクロでの買物とすれば、JR利用はデパートに入っているブランドの買物である(金額的には中間の路線高速バスはGAPやZARAでの買物といったところか)。今の若者はデパートに行かなくなったが、値段もさることながら画一的な百貨店ブランドに魅力を感じなくなっている。一度、客離れが起きると回復は難しく、選択肢から消される。JRとデパートの衰退は重なるところが多い。

20年前はデパートしかなく、選択肢もないので当然のようにそこで購入していた。しかし、量販店の登場により選択肢が増え、購入機会は増えたが、単価はいっきに下がった。こういった現象はあらゆる消費財に共通している傾向だ。

その現象が公共交通機関で起きている訳だが、今回の大事故はデフレ経済の行き着いた先の現象だと解釈している。行過ぎた安売り合戦は誰も得をしない。消費者は安さ馴れしてしまったが、「格安」の背景に何があるのか考え力も今求められるかもしれない。

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