2008年に青森-函館間を最短1時間45分で結ぶ高速フェリーとして就航した「ナッチャンWorld」、姉妹船の「ナッチャンRera」と共に青函連絡の新たなルートとして期待されたが、その後の燃料高騰や予想を下回る利用者数、また東日本フェリー(現津軽海峡フェリー)の親会社となったリベラのリストラ策もあって定期運航から1年もたたないで撤退、その後は夏期のみの臨時便となり、それも2012年を最後に青函航路から撤退した。その「ナッチャンWorld」だが、クルーズ船として復活することとなった。
津軽海峡で一瞬の間、光を放った「ナッチャンWorld」、今夏、北海道一周クルーズ船として戻ってくることになった。現在のナッチャンは防衛省の災害&緊急時用のPFI事業船として借り上げられているが、リベラでは今年度から防衛省での活動時期以外に観光や地域イベントで活動できるように運航を再開することを決めた。手始めとして、2月に開催された函館の花火大会で鑑賞船として使用されている。
今回紹介する夏の道内1周クルーズは7泊8日という本格的なもの。8/22に係留されている函館港を出港-苫小牧-釧路-紋別-稚内-小樽に寄港し、8/29に函館へ戻ってくるというもの。
このクルーズ、既存の客船ツアーとは随分と内容が異なる。たとえば各港の出港時間は22時以降で次の寄港地には朝の7時に入港するので船内での滞在時間が短い。その分、観光に時間を取っているが、船内での食事提供はなく、朝昼夜は”外食”をしてもらう。船内に飲食施設がないためだが、さらに入浴も下船時の観光ツアーの最中などに温泉に立ち寄って”外湯”をしてもらうので、この辺りは改善の余地がありそうだ。
ナッチャンに乗船されたことがある方ならおわかりであろうが、そもそもこの船には寝台施設がない。防衛省で使用されるようになってから座席部分を改良し折り畳み式のマットレスを用意、また、旧ビジネスクラス席は二段ベッドに改装されるなど宿泊は可能になったが、あくまでも簡易寝台といったレベルである。
また、このクルーズではマイカーでの乗船が可能である。これは多分、初めての試みであろうが、同船が防衛省で使用されるようになってから専用岸壁でなくても、車両の積み下ろしが出来るようになったらしい。寄港地でドライブできるのは大きな目玉といっていいであろう。
ツアーのポイントしては水深の浅い根室海峡の珸瑤瑁水道の通過である。通常の客船クルーズだと水深が浅いため、国後海峡の方へ大回りをするが、霧も多く、幻想的な光景も見られる水道を通る。
料金は函館-函館8日間で109,800円、函館-紋別4日間で64,800円など5コースが設定されている。乗用車はコースによって28,000円~12,000円、食事が付かないとはいえ比較的リーズナブルな設定である。
このツアーの主催は紋別観光振興公社、「Sea級グルメ全国大会in紋別」に併せて開催されるものである。
寝台施設があくまでも簡易なので8日間はきついかもしれないが、シベリア鉄道的な旅を求めるのであれば楽しめるクルーズかもしれない。
なお、「なっちゃんworld」は今年の函館マラソンでも休憩仮眠施設として使用される(宿泊施設の許可がないのであくまでも仮眠休憩所)。姉妹船のなっちゃんReraは台湾で活躍しているが、Worldの方も今後は首都圏への進出も計画している模様。
本来は宿泊施設を備えていたいので、クルーズ船とは違って地元へ還元ができる。今回は船内泊とはいえ、食事はすべて地元なので、地域にとってのメリットも大きいのではないか。
一時期、災害応援以外でも離島奪還作戦での使用も検討かと騒がれた同船、是非、そういった目的で使われることなく、観光レジャーで利用されることをあわせて祈りたい。