都市型ホテルへの展開を始めている星野リゾートが、ホテルの自社スタッフによる観光案内サービスを導入すると発表した。星野の都市型ホテルのブランドはOMOという変わった名称であるが、「寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル」をコンセプトにしている。その中でスナックや居酒屋まで直接案内するという珍しいサービスを始める。
4月28日に「OMO7 旭川」(旧旭川グランドホテル)、5月9日に「OMO5 東京大塚」(新築)が開業予定となっているが、既にWebサイトでは、街の案内ガイド「ご近所専隊OMOレンジャー」と街歩きが楽しめる「ガイドツアー」などの情報を公開している。大塚のホテルの場合、目玉となるのが案内サービス「Go―KINJO(ゴーキンジョ)」である。例えば「ナイトカルチャー」というテーマならスナックを案内するなど、地元しか知らない飲食店などを有料で体験できる。案内するのは普段はフロントや厨房、売店などで働くホテルスタッフということだが、聞いたことがないサービスである。
こういったサービスを始める背景にはホテル建設ラッシュの中、いかに差別化できるかがある。星野の場合、人による「おもてなし」を意識している内容だが、対極的な存在としてロボットがもてなすHISの「変なホテル」が人気となっている。省人化を徹底しながらもロボットのデザインにこだわるなど遊びごころを織り交ぜながら効率化をはかる変なホテルは話題となっているが、当然、星野は意識しているであろう。これまでの概念のホテルでは生き残れないということだが、星野社長はターゲット層に関しても注目すべき発言をしている。
記者発表の席で星野社長は都市型ホテルの進出にあたり、「ビジネス客を捨てる選択をしたことで、思い切ったサービスができる」と述べている。大都市部のホテルが増え、差別化する意味でビジネス客切りを言っているのであろうが、かなり乱暴な発言ともいえる。
そして目玉の観光案内サービス「Go―KINJO」だが、何と有料である。大塚は日本酒の名店が多い場所だが、「はしご酒」「昭和レトログルメ」「ナイトカルチャー」など飲食代とは別に千円取るという。本来、こういったサービスはコンシュルジュ・デスクやフロント氏などが無料で案内してくれていたもの。スタッフが同行するだけで金を取るとは調子に乗りすぎているのではないか。
星野の特徴として、他のホテルでは宿泊や飲食など部門ごとに専門スタッフが分かれているのに対し、星野では1人が複数の業務を担う働き方を導入している。きめこまかいサービスを提供し、社員を有効に活用するのが狙いだが、OMOではこれを広げて案内役も任せる。
合理的で、社員にも幅広い職務が体験できるので、経営者と社員の両者にメリットがあるように見えるが、これは未熟な何でも屋を育成してしまうリスクもある。実際、星野リゾートの従業員への評価は芳しくない。今回のサービスの場合、お酒の席への案内なのでトラブルも懸念される。スタッフの過剰労働にならないような体制づくりは、なされているのであろうか。
前述したが、こういうサービスなら、コンシェルジュがいるようなホテルならとっくにやっていることである(目的地まで同行することもある)。
観光客やその地に馴染みのない人たちをターゲットにしているのであろうが、「ビジネス客を捨てる」という考え方にも疑問を感じる。旅慣れた人の見識や評価能力を甘く見てはいけない。特に高級都市型ホテルに泊まる上級管理職クラスであれば、宿泊以外にも飲食施設や宴会なども利用することが多い。特に地元の政財界人の利用が多いようなグランドホテル系で、彼らを敵にまわして悪評をたてられたらどうなるであろうか。
実は拙facebookに4/28から「OMO7 旭川」になる旭川グランドホテルに関する投稿があったので紹介する。
『最近、旭川グランドのレベル低下を感じます。(1)元々広くないシングルですが、机を窓側に移動したので、せっかくの眺望が見づらくなった。まるでリッチモンドやダイワロイネットの配置。(2)コーヒーショップのアドニス、札幌のライラック亡き後は北海道で最も豊富なメニューを提供していたが、大幅縮小。アラカルトでスープすらオーダできなくなった。
その挙句、食事中に蚊にさされた。中華もスモールポーション廃止で一人利用が難しく。(3)以前は3つのレストランから選べた朝食が、窓なし宴会場で円卓のブッフェだけに。まるでモントレ。(4)1F売店、開店は午前11時に。朝食後、チェックアウトまでの時間にお土産も買えない。旭川のフラグシップホテルが、星野の採算重視のためか、つまらないホテルになってきています。残念です。』以上
星野リゾートは顧客を見ているようで、実際は効率と合理性、営利の追求が優先事項。企業なのでそれは否定しないが、それが余りに露骨であり、外資系ホテルの悪い面を導入している。それを日本流にアレンジしているが、優先順位も誤ると星野ブランドの凋落も早く来るであろう。