
14日付の京都新聞で「観光政策変わる?自民総裁選」という記事があった。選挙の方は大方の予想通り、菅義偉氏が選ばれたが、観光政策も安倍内閣の方針を引き継ぐと発言している。当然ながら菅氏はインバウンド推進派であり、昨年12月、全国に訪日客向けの国際級ホテルを50ヵ所新設したいなどと発言している。IR誘致にも熱心であるが、観光業に詳しいかというとそうでもなさそうであるが。これは推測だが、かつてはヤリ手の金融マンで今は国宝や文化財などを補修する小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が日本政府観光局特別顧問を務めており、盛んに金持ち外国人に金を落とさせる高級ホテル建設を訴えており、そのあたりからの入れ知恵もあったのではないか。
京都市内は高級ホテルが乱立する状況・一般ホテルと民泊(ゲストハウス)が増えすぎてコロナ以前から飽和状態
アトキンソン氏は京都在住だが、京都市内は氏が望むような高級ホテルが乱立する状況にある。それでなくても一般ホテルと民泊(ゲストハウス)が増えすぎてコロナ以前から飽和状態にあり、一昨年あたりから市はこれまでの産めよ、増やせよの方針を撤回してホテル規制の方向で動いていた。増えすぎた宿泊施設は当然ながらインバウンドありきであり、需要がほぼゼロになったことで、あらためて日本人客の取り込みが叫ばれている。何を今さらという感じであるが、冒頭のブログタイトルにあるように本来、国内客あってのインバウンドであり、そこがしっかりしていないと総崩れになるのだ。
インバウンドは天災、国際関係の悪化、戦争や紛争、そしてパンデミックなど不安定要素が多く、訪日客ありきは大変危険
2011年3月11日の地震が起きる以前、今ほどではないがアジア系を中心にインバウンドブームが起きていた。しかしながらその日を境に客は消滅、バブル崩壊以降、観光業界も長期低迷に入っており、激減していた団体客を外国人でカバーし、ひと息付いていた時のことである。
その当時、著者はインバウンドは天災、国際関係の悪化、戦争や紛争、そしてパンデミックなど不安定要素が多く、訪日客ありきは大変危険であり、国内客という土台があって、それに付け足すぐらいのものとして捉えないとまた大火傷をしますよとブログ、講演セミナー等で述べてきた。実際、地震の後は日中関係の悪化で中国人客が激減、最近では韓国との問題もあったが、観光産業は世の中を映し出す鏡で、デリケートな「水もの」ビジネスである。
日本人客に軸足を置く時が来ているのではないであろうか。海外旅行に行きたくても行けない今こそ呼び戻すチャンス
コロナ禍によってあらためてインバウンドの脆さが露呈したが、日本人客に軸足を置く時が来ているのではないであろうか。海外旅行に行きたくても行けない今こそ呼び戻すチャンスである。そのためには訪日客ではなく、国内客を主役としたサービスが求められる。
また、14日の北海道新聞に「富良野観光、徐々に回復」、訪日外国人に頼らない観光客誘致は可能だという記事があった。こちらも京都と同じであり、インバウンドへの過度の偏重が、結果的に国内客の北海道観光離れを進めたのではないか。
国内客が来てくれないので生きていくにはこれに頼るしかないと言われそうだが、この数年、国内客対策は疎かになっていた。ラベンダーは外国人だけではなく道内客にも人気、道外客なら尚更である。今でも北海道は道外客にとってはある種の「海外旅行」的な存在である。旅費がかかる分、海外に持って行かれてしまった格好で、かつて多かった若者層も沖縄に人気を取られていた。しかしながら最近では女性や若年層などアクティブではない観光を求める層などに再び人気が出ており、観光王国復活のチャンスでもある。
コロナ禍は日本人客を国内に呼び戻し、国内観光を変える千載一遇のチャンス
菅氏はコロナが収束をすれば訪日客をあらたに6千万人呼び込むといっている。これだけ世界が激変しているのに以前と同じ発想のようである。政府はいまだインバウンドに固執しているようだが、もう少し立ち止まるなり、引き返すなりの柔軟性を持つべきではないか。もし、コロナが発生しなかったら国内観光はどうなっていたであろうか?想像だが、インバウンド偏重が更に強まり、大都市や主要観光地のホテルは今のふつうの日本人では泊まれない料金まで上昇。京都に代表される観光公害も深刻化し、日本人客はお気軽な「安・近・短」か海外志向が更に強まって国内旅行離れは加速したであろう。
そう考えるとコロナ禍は日本人客を国内に呼び戻し、国内観光を変える千載一遇のチャンスとも云える。観光関係者は一度、インバウンドありきを捨てて、日本人客目線で考えてもらいたい。健全な状態に戻してからのインバウンドによいのではないか。日本再発見、令和版の「ディスカバー・ジャパン」が構築できる機会にしていただきたい。