相変わらずの鉄道書籍ブームだが乱造の感は拭えない。そんな中、一風変って、筋が入っているのが今回紹介する「北海道化石としての時刻表」だ。
まず、このタイトル、時刻表を「化石」と名付けたように、文化史、時代風俗、交通史・産業考古学視点などから時刻表と北海道について書いているところが面白い。戦前からの古い時刻表を元に、過去のダイヤグラムを遡ることによって、その鉄路と社会の変遷が見えてくる。著者の現地取材も入っているので、なかなか手が込んだ内容だ。
また、第二章では滝川-釧路を結ぶ国内最長普通列車を「最長鈍行阿房列車」として紹介。最終章では、北海道内の駅を擬人化した座談会を登場させるなどなかなか個性的なつくりとなっている。
著者の柾谷洋平氏はこの春まで北大大学院生だった若干24才の若者だが、文体は計算づくなのか、個人的趣味なのかわからないがえらくクラシカルである。阿房列車と名付けた通り、内田百聞氏の影響が文章からも伺える。また、宮脇俊三氏の大ファンであることも擬人化座談会を読んでいると見えてくる。
鉄道好き(特に北海道)の人ならそれほど目新しい内容は書かれていないが、ここまで北海道と時刻表を掘り下げたことには敬服であり、著者のこだわりと愛着が伝わってくる。第三章の「広告の愉しみ」は時刻表の広告から時代を読みとくが、楽しく、高尚な内容だ。
管理人も古い時刻表コレクターであり、そこから時代を垣間見るのが好きである。拙ブログでも古い北海道時刻表をベースに、「激動の1968年、交通公社時刻表で北海道を旅する」と題したものを書いたが今でも多くのアクセスをいただく。また、内田百聞氏と宮脇俊三氏を尊敬しているあたりも共通項なので親近感を覚える。
実は出版元の亜璃西社さんとは親しくさせて頂いているが、編集のI氏より、昨年夏、初めての鉄道ものを出したいが、売れるかどうか相談を受けたことがある。内容を聞いて、似たような趣味の人はいるのだなあと思ったが、詳しく知るうちに24才の若者の方が遥かに筋金入りで、思い入れのレベルが違うことがわかり、直感的に「いけるのでは」と思ったものだ。
鉄道書籍のレベルが落ちている昨今、『北海道化石としての時刻表』には、「北海道」・「時刻表」・「産業考古学(鉄道文化史)」と好きな人にはたまらないファクターが三拍子詰まっており、玉石混交の鉄道書籍に一石を投じることができるかもしれない。これは道外をターゲットにやれば売れますよと答えた。
聞くところによると、神保町の「書泉グランデ」では追加注文、池袋のジュンク堂では品切れらしい。管理人の勘が外れなかったので、少しほっとしているところだ。
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