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北海道ローカル路線バスと秘境旅 函館-木古内-小谷石(函館バス)後編

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目に飛び込んできたのは「駅前飯店急行」。いい名前だ。相当鄙びているが、「名物やきそば」の幟が出ている。ドア越しから店内を覘いてみると2組の先客がおり、この駅前にしては盛況だ。他に店もなさそうなので、”木古内焼きそば”の店に入ってみた。
店内は昭和40年代の食堂そのものである。いったいいつの時代かわからないポスターが沢山張ってある。メニューを見ると、名代・焼きそば弁当700円、焼きそば700円、大盛が千円である。焼きそば弁当が気になり、店主と思しき、おばあちゃんに訊くと、単なるテイクアウトとのこと。やはり、焼きそばが名物のようなのでガラナジュースと共に注文をした。
出てきたものは、ソース味とも醤油味ともつかぬ、さっぱり目の焼きそば。蒲鉾が入っているあたり懐かしい昭和の味だが、今まで経験したことがない味付けである。ソースをたしたが、ガラナと焼きそばの相性がよい。
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テーブルに新聞のコピーが置いてあり、目を通すと、「駅前飯店食堂」はこのおばあちゃんが50年近く経営してるそうだ。「駅前急行」というネーミングも時代を感じる。青函トンネルが完成する以前、ここには函館方面から松前や江差へ行く急行列車が停車したので、この屋号になったのではないかと推測する。50年前は北海道に特急列車はまだ走っていなかったはずで、「急行」が最優等列車なのだ。
ちょうど千円を払い、すぐ前のバス停へ向かった。12時35分発の松前行きが先に待っていた。こちらは始発である。すぐに駅前通りから小谷石行きバスが入ってきた。2台のバスが木古内駅前に並び、なかなか豪勢な揃い踏みである。
意外にも木古内では誰も降りず、乗客はひとり。車内に乗り込むと、乗客は中高年の女性が5人と男性2人。日曜日なので多いのか少ないのか判断が付かない。
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わたしが頻繁にローカル路線バスの乗車をした1990年代前半は如何にもお年寄りといった客が多かったが、最近は前よりも若返っている気がする。杖をつくようなお婆ちゃんはみかけなくなり、その代わり、ちゃんと化粧をして、携帯電話も持っているような60代ぐらいの人が目立つ。
理由は定かではないが、病院の送迎バスの充実や、お年寄りのアンチエイジングもあり、昔よりも若く見えることも関係しているかもしれない。
木古内を出たバスは市街地からふたたび国道へ入り、海岸沿いをひた走る。国道228号線を左折すると知内の中心街だ。
知内出張所で数人が下車。知内は北島三郎の出身地として有名だ。彼は函館の進学校出身だが、知内から汽車で通っていたのであろうか。
ここは漁師町のイメージが強いが、なかなか海は見えず周囲は畑が目立つ。知内の中心を過ぎると巨大な鉄塔と無機質な巨大な建物が見えてくる。知内火力発電所だが、その先が海のようで、段々と民家も減ってくる。
また、発電所の反対側には「こもれび温泉」という新しそうな日帰り温泉施設があった。路線バスも便によっては、温泉まで立ち寄る。知内と云えば、青函トンネル近くにある知内温泉が有名であるが、火力発電所のすぐ傍に豪華な公共温泉が出来るとは何とも意味深である。
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道道531号線は湧元を過ぎると、蛇ノ鼻岩、狐越岬、ナマコ岬、猿人岩など形も名前も奇妙な奇岩怪岩が連なった海岸線となる。そして、民家も完全になくなる。この日は風が強く、霧雨が降る悪天候。バスは岩礁が連なる海岸線を抜けると、こじんまりした小谷石の集落が見えてきた。海にへばりつくように民家が並んでいる。老女がひとり乳母車のようなものを押しながら強風の中、歩いている。
民宿の前に最初のバス停があり、そこからせいぜい2,300メートル走ったであろうか、終点の小谷石バス停である。降車客はわたし以外ゼロ。ローカル路線バスの終着は既に空っぽになっていることが多い。ダイヤでは13時10分到着だが、少し早めに着いた。折り返しが13時29分発なので20分程度時間がある。
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運転手に折り返しに乗ることを告げると下車し、集落を歩いてみた。
バスの折り返し場には昔の郵便ポストがあり、その脇には冷鉱泉のようなものが山から流れてきている。霊泉なのか丁寧に祀られており、島牧村・栄浜にあった「栄浜霊泉」を思い出した。名前も「薬師湯」とあり、湯ではないが、霊験あらたかなのであろう。コップがあったので、ひと口含んでみると軽い硫黄臭があるが、効きそうな鉱水だ。この水を湧かして、お風呂にしたら素晴らしい泉質になると違いない。
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バス停から先がどうなっているのか気になって歩き始めたが、すぐに道は狭くなり、行き止まりになった。民家の間を抜けたが、そこから先は何もない。このバス停とともに、小谷石は尽きており、この先に矢越岬があるが海からでないと行けない。
誰も歩いていない。ピンク色のかわいいペンションがある。「ホットタイム」という名前だが、この場所にしては違和感がある。きっと地元の漁師さんの奥さんが頑張ってやっているのであろう。テレビ番組で見た民宿も健在である。「海峡の宿」と書いており、十分立派な旅館の佇まいだ。
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海岸の一本裏手の通りにまわってみた。人が集まっている。近寄ってみると公民館の前で海鮮バーベキューを地元の小学生や親御さんがやっている。贅沢にもアワビを焼いている。
見慣れない人物が歩いているので、ジロリと一瞥された。これが旅番組であれば、「何を焼いているのですか」と訊いて、いつのまにか輪の中に入り、おすそ分けを貰う。そして、アルコールも入り盛り上がるのであろうが、現実は違う。
こちらは肩身が狭いかんじで、小さな声で「こんにちは」と呟いたつもりだが反応はなかった。きっと聞こえなかったのであろう。
ふたたびバス停に戻った。まだ、発車まで時間は余っている。運転手は外でタバコを吹かしていた。
「戻りました」と告げ、バスに乗り込んだ。いつもならこういう時、運転手に話しかけるのだが、話題が出てこない。天気のせいか少々アンニュイである。
バスは13時29分、定刻通りに出発をした。すると運転手の方から話しかけてきた。
「お客さん、どこまで?」
木古内か函館まで通しで乗るか決めていなかった。
「とりあえず、木古内まで」。
とりあえずというのも変だが、どちらでもよかった。
会話はこれだけ。わたしのことを珍客と運転手と思っていたであろうと、勝手に予想を立てていたが、こちらの自意識過剰であったかもしれない。運転手と一対一だとどうしても、過剰に反応・適応してしまう傾向がある。こういうところに己の性格が出てしまう。
帰りのバスは「こもれび温泉」に立ち寄り、数人の老人が乗り込んできた。アルコールが入っているのか、湯上りのせいか、浜焼けなのかわからないが、赤ら顔でご機嫌である。急に温泉に入って帰ろうかと思ったが、次のバスまでは2時間半ある。
結局、乗客は木古内で降り始め、またしてもひとりになってしまった。これからマンツーマンは疲れそうだ。停車時間があったので、後を追うようにわたしも降りて駅構内へ向かった。
木古内駅で20分ほど待つと青森方面から特急「スーパー白鳥」がやってきた。自由席に飛び乗り、中腹まで雲で覆われた函館山を車窓に見ながら30分強の乗車で函館へ着いた。
バスに沿うようなルートで鉄道も走るが、線路は道路よりも高台にあるので、見晴らしはいいが、やはり路線バスの方がじっくり観察するには向いていると再確認をした。
日曜日の午後、駅は観光客で賑わっていた。この場所で「小谷石」を知ってますかと訊いたら、何人反応するであろうか。朝市前の通りを歩きながら宿へ向かった。
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